第2回宮城県「柔道整復学」構築学会にて


平成18年6月25日(日)

仙台市 江陽グランドホテルにて


酸素カプセルの論文発表酸素カプセルの展示

高気圧酸素が及ぼす作用とその特徴について

有限会社 イーストワークス

メディカル事業部 マネージャー 成田 良彦



1.緒言

 近年、酸素バーや酸素濃縮器に代表されるように、社会的にも酸素に関して非常に注目されており、中でも、通常よりも高い気圧環境内で純酸素を投与することにより、大気圧下での空気呼吸の場合には血液中に微量にしか存在しない酸素量を増加させることが出来る『高気圧酸素療法(Hyperbaric Oxygen:以下、HBOと略記)』が注目を浴びている。HBOは、医療の世界では40年以上の歴史を誇っており、現在、国内にて約900ヶ所、全世界では約1万台以上の医療施設で使用されている。 この通常よりも高い気圧と酸素濃度を組み合わせることにより、減圧症や一酸化炭素中毒を含め、虚血性疾患、嫌気性感染症、神経疾患など、その適応疾患は非常に幅広く、その有効性についても確立したものとなっている。

 本稿においては、HBOに関する原理と作用について、また、㈱シェンペクスから、この高気圧と高濃度酸素を組み合せることにより、最大加圧が1.3気圧、酸素濃度50%まで上げることが出来るHBO機器が開発されており、この機器を用いて行われた臨床試験の一部について紹介する。

酸素カプセル
2.HBOの作動原理

 前項に示してきたように、HBOとは、人工的に高い気圧環境を作り出し、その環境下に生体を置くことで、通常の環境下での場合よりも血液中に極微量にしか存在しない「溶解型酸素」を増加させ、身体に多くの酸素を取り込み、酸素不足となっている細胞や組織に十分な酸素を送ることを目的とした装置である。

 実際に行われる装置内への加減圧の基本的なメカニズムとしては、密閉した装置内へ加圧用気体を送入すると圧力が上昇し、加圧した装置内の気体を排出すれば減圧する。この際の加減圧速度は、装置の内容積より患者の身体と器材が占める容積を減じた気積に対し、送気弁または排気弁の開度調節による気体送入量と排出量の調節で選択できる。また、治療圧力到達後は、気体送入量と排出量を平衡させて定圧保持でき、定圧保持による治療時間の経過後に大気圧まで減圧して治療を終了する。


3.高濃度酸素の作成法

 酸素バーや酸素濃縮器などに使用される高濃度の酸素を得る方法として、膜方式で行うもの、PSA方式で行うものなどが挙げられる。ここで、㈱シェンペクスにて開発されたHBO機器には、PSA方式が使用されており、50%の濃度をもつ酸素を供給することが出来る。そこで、PSA方式における原理と膜方式との比較による検討について述べる。


3.1 PSA方式(Pressure Swing Adsorption)

 吸着剤の詰まった槽へ圧縮した空気を送り込むと、不必要なガスは吸着剤に吸着され、必要なガスのみが分離される。吸着されたガスは、槽を大気圧まで戻すことで脱着される。この加圧・減圧を繰り返すことでガスが製造される。酸素PSAでは、吸着剤に合成ゼオライトが充填されており、窒素、炭酸ガス、水蒸気などを選択的に吸着する。

 原理としては、合成ゼオライトなどの吸着剤などにより、空気中の窒素を吸着除去し、高純度の酸素を得る。合成ゼオライトは、ある一定の窒素を吸着すると、それ以上の窒素を吸着できないようになる(破過点)。そこで、減圧・吸引などで吸着した窒素を脱着し、再び吸着できるように再生する。この方法では、短時間のサイクルで圧力を変動して、窒素の吸着‐脱着を繰り返し、酸素を製造するため、ゼオライト吸着剤及びプロセスの改良により、装置がコンパクトになり、酸素製造コストが安価になってきている。

 また、細孔径0.5nm以上のゼオライトは、空気中の窒素を選択的に吸着するため酸素が濃縮される(*)。この吸着選択性は、窒素と酸素の四重極子モーメントの差によるものである。ただし、空気中に約0.9%存在するAr(アルゴン)も製品酸素中に濃縮されるため、酸素PSAにおける製品酸素の最高到達濃度は95.5%となる。また、CaX交換型の吸着剤よりも窒素の吸着選択性に優れたLiX(SiO2/Al2O3 = 2.5)あるいはLiLSX(SiO2/Al2O3 = 2.0のX型)が使用されている。

(*)窒素と酸素の吸着分離は、主にイオンによる電場の勾配と窒素・酸素の四重極子モーメントとの相互作用による静的な吸着量差に基づいている。


3.2 酸素富化膜方式

酸素富化膜法における主たる原理としては、各成分(N2、O2、Ar、H2O)の透過係数の差異によって分離する。ここで用いられている膜としては多孔質であるのと非多孔質であるのと2種類がある。多孔質膜では、通過する分子の大きさと分離膜の細孔径の関係で生ずる移動速度差から得る。一方、非多孔質膜では、N2やO2の分子が、膜への『溶解⇒拡散⇒脱溶解』の過程を経て移動する際の速度差によって得るものである。これにより、空気中のN2やO2が膜表面から膜内へと溶解拡散し、裏側の膜表面から気化してくる。この過程において、酸素の溶解拡散係数が大きいので、空気中の酸素が濃縮され、酸素富化空気が得られる。


4.高気圧酸素環境下での物理学および生理学
4.1 高気圧酸素での物理学

 気体の圧力に関する物理法則としては、気体の圧力と体積の関係を示しているBoyle-Charlls(ボイル-チャールズ)の法則、分圧の概念として知られているDalton(ダルトン)の法則、気体の分圧と液体への溶解について示しているHenry(ヘンリー)の法則などがある。ここでは、「Henryの法則」に特化して述べていく。

 気体が液体中へ溶解する場合、あるいは液体中から気体中へ既に液体中に溶解している気体が放出される場合に温度条件が一定ならば溶解または放出される気体の量はそれぞれの気体の圧力、つまり分圧に比例する。これをヘンリーの法則(Henry’s law)と呼ぶ。呼吸生理学的には、Henry – Dalton の法則として、一括に考察されている。通常の呼吸において、その呼吸ガスはいくつかの成分からなる混合ガスである。空気には少量のアルゴンや二酸化炭素ガスなどが含まれているが、仮に21%の酸素と79%の窒素からなるとすれば、空気の成分ガスは酸素と窒素になり、それぞれの示す圧力を分圧と呼ぶ。また、その分圧の総和が混合ガスの示す圧力と考える。そのため、特定の成分ガスの分圧を求めるときには、その気体の濃度を求め気体の全圧力にその成分ガスの濃度を掛ければよい。この法則により、肺胞に取り込まれた酸素は、呼吸膜を介してヘンリーの法則により血液(血漿)に拡散溶解し、抹消組織で利用されたのち、産生された二酸化炭素も拡散によって血液中へ移行し肺に送られる。


4.2 結合型酸素と溶解型酸素

 大気圧環境下における通常の空気呼吸の場合、動脈血内に酸素は約98.5%がHb(ヘモグロビン)と結合して運搬され、この酸素を結合型酸素という。1分子のHbは4分子のヘムを含み、ヘム1分子は1分子の単体酸素と可逆的に化学結合する。したがって、1分子のHbは4分子の酸素を運搬することが出来る。

 理想気体の法則によれば1分子の酸素は22.4Lの体積を占めるので、1gのHbは1.39mlの酸素と結合する。ヒトの全血中のHbの標準値は15g/dLであるので、血液中の全Hbが酸素と結合したとすれば、その酸素量は20.85vol%となる。この値を、血液の酸素容量といい、これにHbの酸素飽和度をかけた値が結合型酸素量である。ここで、動脈血の酸素飽和度を98%とすれば、動脈血中の結合型酸素量は20.43vol%となる。

 溶解型酸素とは、吸気時、肺胞内の酸素分圧は肺動脈血(静脈血)のそれよりも高く、酸素は分圧差に応じて肺胞内から血液中へ拡散によって移行し、血液の液体成分中へ溶解する。この酸素を溶解型酸素という。生体の深部体温37℃の温度環境では、血液液体成分への酸素の溶解度係数は0.0031vol%/Torrである。大気圧環境下空気呼吸では肺胞内の酸素分圧は平均100Torrであるので、動脈血中の溶解型酸素量は、0.31vol%となる。

 私たち人間は、安静時において250mL/minの酸素を消費しているが、もし、溶解型酸素だけで生体の酸素需要を賄うとすれば、80L/minの心拍出量が必要となる。ここで、安静時におけるヒトの生理的な心拍出量は4~5L/min程度であるので、溶解型酸素だけで生体の酸素需要を賄うことは、とても不可能である。


結合酸素

4.3 高気圧酸素での生理学

 大気圧環境下における酸素吸入では、動脈血内酸素の増量には限界がある。その理由として、結合型酸素の増量は血液中のHb量、Hbの酸素飽和度およびこれに影響を及ぼす肺胞内酸素分圧の値から制約を受けることなどが挙げられる。つまり、赤血球Hbの酸素飽和度が100%となれば、動脈血中に結合型酸素をこれ以上増量させることは不可能である。また、肺胞内の酸素分圧は、吸入する酸素濃度を100%としても、大気圧を超えて上昇することはありえないから、溶解型酸素の増量にも限界がある。このことから、大気圧環境下で行う酸素吸入では結合型酸素及び溶解型酸素の増量には限界があり、動脈血中に2.19vol%を超える量の酸素を増加させることは絶対に不可能であり、Hb量の増加か肺胞内酸素分圧の上昇を図る以外に方法がない。前者については、大きな外傷や手術などで大量の出血があった場合に行われる輸血などの特別な事例を除いて、通常、短時間にHbを増量させることは不可能である。後者における肺胞内の酸素分圧の上昇が望まれる場合は、環境の気圧を上昇させて吸入する酸素分圧を大気圧におけるよりも上昇させる以外に方法がない。


高圧酸素カプセル

 そこで、ボイルの法則により、HBOのように環境気圧の上昇によって、全ての気体は圧縮され、分圧が上昇することになる。これにより、赤血球Hbに依存しないで動脈血の液体成分中に直接溶解して存在する溶解型酸素が格段に上昇することになる。

搬は、動脈血と組織との酸素分圧較差を原動力とする拡散によって行われている。HBOにおいては、動脈血中の酸素分圧が上昇することから、抹消組織との間で酸素分圧較差が極端に拡張するため酸素の拡散距離が延長し、移行する速度が上昇すると考えられる。その結果、器官・組織への酸素運搬効率が向上し、生体の低酸素症の改善を促進することができる。


結合酸素結合酸素



5.酸素の必要性とその効果

 ここまで、高気圧環境下での高濃度酸素吸入がもたらす身体への影響について述べてきた。この両者を組み合わせることにより、ダイエットや美肌、疲労や怪我の回復を早めるなどの効果が期待されている。実際にHBOを利用することで、上記に示してあるような分野での効果が期待されており、また、報告されているのもある。そこで、本節においては、その一部分を紹介していくことにする。


5.1 怪我の改善促進

 損傷した組織を修復するためには、酸素を必要とする。通常の怪我の処置、例えば腫れに対してはアイシングにより、その部位を冷やすことで血流量を減少させて腫れを軽減させていた。しかしながら、この方法では局所的に組織修復のため大量に要求されている酸素量も減少してしまう。この酸素供給の不足分だけ、回復過程を遅延させてしまう恐れがある。つまり、アイシングでは腫れを抑えることが出来ても組織修復を妨げていると考えられている。一方、高気圧下での高濃度酸素の供給は、血液量を減少させると共に、虚血状態の損傷部位が十分に酸素充填されるまで酸素供給が保たれるため、組織修復過程を急速に進展させることが可能となる。これが、損傷部位を急速に回復させることが出来る理由である。


結合酸素


5.2 疲労改善・有酸素運動の効果向上

 筋肉疲労や筋肉痛に関与する乳酸を分解するためには酸素を必要とする。高気圧高濃度酸素は、体内に蓄積された乳酸の分解を促進し、疲労感を早期に消退させ、疲労している筋肉細胞を賦活させることが出来る。

 上記に示してきたように、組織の損傷、筋肉疲労などに対して酸素需要が高まってきている。その一方で、運動時における筋組織では大量の酸素を必要としており、酸素が不足すると筋肉は十分な運動をすることが出来ない。この時に、十分な酸素が組織に供給されれば、組織が十分な機能を果たすため、運動効果が向上し筋疲労も残りにくい。また、組織に十分な酸素が供給されれば、心拍数も低下するため、大気圧下よりもレベルの高い運動がしやすくなる。


乳酸と酸素


5.3 素肌のコンディション維持

 皮膚細胞は人体の中でも最も酸素が行き届きにくい部分であり、老化と共に皮膚の酸素量は減少していき、酸素不足になる。酸素不足の細胞に対して、いくら良い美容液を使用しても効果を最大限に発揮することは出来ない。美肌の美しさは、皮膚細胞に含有している酸素量で決まるからである。そして、肌を美しく健康的に保つためには体内で合成されるコラーゲンが必要となる。コラーゲンを合成するためにはメタロプロティーナ酵素が必要不可欠であり、この成分は新陳代謝によってのみ生成される。この新陳代謝を促進するために最も必要な物質が酸素である。


肌の保湿性と酸素


6.HBOに関する研究報告例

 上記に示してきたように、HBOの使用において身体への様々な効果が期待されている。そこで、㈱シェンペクスにて開発された高気圧高濃度酸素機器を用いて様々な臨床試験を行ってきた。その一部を紹介すると共に、高気圧酸素機器が示す有効性について述べていく。


6.1 高気圧酸素機器の使用による生理学的効果の検証(群馬大学との共同研究)

 高気圧下での高濃度の酸素を吸入しながら運動した際の生理学的検証として、健康な被験者7名(M:6名、F:1名)を対象として、大気圧空気条件、大気圧下高濃度酸素条件、高気圧下高濃度酸素条件(安静時、運動直後)の4つの環境条件にて比較検証した。また、高気圧下高濃度酸素条件においては、1.3気圧に加圧した機器内で、50%の酸素濃度をフェイスマスクにより8L/minにて被験者に吸入した。各条件においては酸素(空気)吸入開始から3分経過後および10分間の運動実施後に動脈血採血により、動脈血酸素分圧(PaO2)および動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)を分析した。その結果、PaO2に関しては、大気圧空気条件に対して高気圧下高濃度酸素で有意な上昇が見られた(P<0.01)。一方、PaCO2に関しては、大気圧空気条件と大気圧下高濃度酸素条件との間で有意な差が認められなかった。このことより、大気圧下に比較して1.3気圧下で50%濃度の酸素を吸入した方が、約2倍の酸素が血中に溶け込んでいることが判明した。


6.2 運動時呼吸循環諸指標に対する高気圧高濃度酸素環境の影響(山形大学との共同研究)

 一般に、高気圧下で高濃度酸素を吸入することは運動時の低酸素状態を軽減し、低酸素由来の肺水腫の予防や抹消の虚血状態を解消するものと考えられている。また、運動選手においては、持久力や心肺機能を高め、運動後の疲労を早く回復させたり、筋の傷害を低減する効果を期待し利用されている。しかしながら、呼吸循環調節系にどのような影響を与えるのか十分に解明されていない。そこで、大気圧通常濃度酸素条件(NN ; normobaric normooxia)、高気圧通常濃度酸素条件(HN ; hyperbaric normooxia)、大気圧高濃度酸素条件(NH ; normobaric hyperoxia)、高気圧高濃度酸素条件(HH ; hyperbaric hyperoxia)の各環境条件下において、エルゴメータによる運動を行った。高気圧・酸素の条件としては、1.3気圧で50%O2 in N2のガスを満たしたダグラスバックを使用し、運動には、3分間の安静状態を保持した後、50W、100W、150Wの負荷でそれぞれ15分間、5分間、5分間連続的に実施した。測定パラメータとして、換気量、酸素摂取量、心拍数、炭酸ガス排出量などを測定し、これらから、呼吸の効率を反映すると言われる換気当量を算出した。その結果、HN条件下では、recovery時に換気当量が有意に低下し、心拍数も高い傾向を示したが、HH条件下ではその傾向は見られなかった。つまり、気圧を上げただけでは、ガスの密度が増加するため、呼吸をするのが大変になるが、気圧を上げると同時に高濃度酸素を供給すると、その傾向が消失することがわかった。


7.総括

 本稿において、通常よりも気圧環境が高い高気圧環境という特別な環境下において、高濃度の酸素(約50%程度の濃度)を併用した機器、高気圧酸素機器について、その原理から身体に及ぼす影響や効果について述べてきた。また、実際に開発されたHBO機器を用いての臨床試験を行うことにより、身体への効果についても有効的な働きをもたらすことが示されてきた。しかしながら、身体への効果に対するメカニズムなど、まだ不明な点が多いため、今後の研究成果にも期待される。